世紀の悪党ども ペガサス選書
Scoundrels & Scalawags
人は騙されることが好きである。夢は大きなまま、信じられないと言われるようなことこそ疑いは潜め、気持ちよく騙される。そしてそれは真だといつも信じ続ける。
ここに出てくる話は、40人の手によって書かれた40の悪党どもの話である。もちろん詐欺だけではなく、強盗、魔法の油、海賊、スパイ、遺跡、ミイラ捏造、医師免許偽造、借金王、相場師、万能治療機械、密造酒、粉飾決算、歴史捏造、切手偽造、俳優、クリミヤ総督、など。巨匠の名前を借りて、曲を作り、絵を描き、手紙を書く者もいる。ここでは人を騙す話をいくつか紹介したい。
豪華な衣装と宝石は欠かしたことがなく、大きな屋敷に有名無名の美術品を所狭し、と並べたチャドウィック夫人に、あらゆる銀行マンがことごとく騙される。ある銀行に、別のところで作った高額の証券を持って行き、封筒に封をしてから預ける。その後電話で、その預かり明細を作らせる。それからその明細を他の銀行家、または別の金主に見せ、新たに多くの金を借りる。やがて銀行は扉を閉め、婦人帽子屋、骨董品屋も回収の見込みのない未払い勘定をふいにする。
フランシス・ドレイク卿の遺した巨額の財産は、イギリス政府に不当に没収された。財産の正当な継承者がそれを取り返すためには、事前に費用が掛かってしまう。誰でもそれを数ドルずつ分担し、フランシス・ドレイク協会に預けておくなら、やがてイギリス政府から財産を勝ち取った暁には、もちろん謝礼として分け前が配布される。分け前は出資額の比率に応じ、それは出資金一ドルあたり千ドルから五千ドルの間になるだろう。投資は何度でも、いくらでも可能である。フランシス・ドレイク協会は、アイオワ州の農場に生まれたオスカー・M・ハーツェルと二人の友人によって設立された。すぐに多額の費用が集まり、集金を目的とする地方支部がいくつもできた。しかしイギリス、アメリカ双方の政府に、資金集めの状況を明かしてはならない。出資者が増えるにつれ、協会設立当初からの方針 ”沈黙、秘密、平静” を厳守することを強調した。やがて悪事は露呈し、ハーツェルは、当初出資者に説明していたような、イギリス政府を訴えるのではなく、逆にアメリカ当局から訴えられてしまう。出資者の調査も進められたが、被害者であることを認める者は皆無だった。寧ろ、出資したことすらあまり口にしたがらない。何人かは出資したことを認めたが、自分の金を好きなように使っただけであり、不平は何もないと言う。
フレドリック・エマーソン・ピーターズは、あらゆる名前を持ち、あらゆる知識を披露しながら、にせ小切手を切る。ある時はアメリカ平和協会のR・A・コールマンとして銀の聖杯を手に入れ、J・J・モートンとしてスカラベのコレクションについて語り、新しいスカラベと銀の腕輪、その他の装身具を手に入れる。ハイスクール時代から読書家であったが、彼の持つ膨大な知識は、十七歳の時にから何度も暮らしている刑務所で更に強固にされた。刑務所の図書館で数万冊の図書を読み漁るが、図書館がない場合は彼自身でそれをつくり出された。ピーターズは、最期、コネチカット州ニューヘブンのホテル・タフト、五一〇号室で、B・A・モリス博士と名乗った後、部屋で息を引き取った。
人はあらゆる方法で騙される。騙されたすべての人が怒るわけではなく、それをよろこびとし、或いはそれを信じたまま床に就く。しかし、この本に書かれているのと同じ方法を、たとえ実験としても繰り返すことはおすすめしない。なぜならご存知の通り、騙そうとしたその相手は、その手法を知っているかもしれないからだ。
邦題『世紀の悪党ども』 ペガサス選書
原題 ” Scoundrels & Scalawags”
リーダーズ ダイジェスト編
1968 原著
1982 邦訳 リーダーズ ダイジェスト社