人材マネジメント論
経営の視点による人材マネジメント論
よく似ていることが書かれている、と思ったら、同じ人が書いた本を続けて読んでいた。
この本では、人材管理について、組織運営、人材フローマネジメント、報酬マネジメントの視点から分類し、論じている。本書を通じ、日本および欧米の、人材マネジメントの歴史的経緯と、これからの方向性を見ることができる。
組織運営のスタイルに影響を与える要素とは、環境の安定性、仮説検証を行う立場、そして自律性の度合いである。環境の安定性が高い場合は、経営層が細かな計画を立て、皆で目標を達成することが望ましい。仮説検証を行うのはトップマネジメントである。その逆の環境では、第一線で働く労働者が、日々計画を調整しながらニーズに対応していき、検証も部門のような、各組織に任される。組織の自律性も同様で、環境の安定性の高い方が、自律性が低くてもうまく機能する。
ここでは人材マネジメントの、本書で新しいものとして書かれているスタイルを、幾つか紹介したい。まず、社内の異動に市場原理を導入することである。そのなかには、自己申告制、社内公募制、社内外人材流動市場方式である。社内外人材流動市場方式とは、ひとつの仕事について、社内にも社外の労働市場に対しても、同時に公募し、採用するという方法である。代表例として、米国シリコンバレーが挙げられている。
雇用を継続する段階では、シリコンバレーでも最新の方式を採用しているとはいえない。企業は各従業員に対し、雇用を一生保障することはできない。しかし、従業員一人ひとりに、そのキャリアについて考える機会を与え、研修の支援をする。研修をすすめることにより、企業側に利益になることは間違いなく、同時に流動性が高まるため、不要な人材を抱えないですむことになる。
報酬を決める方法について、1990年代半ばから、米国ではブロードバンディングと呼ばれる制度を導入する企業が増えた。等級制を廃止し四~六段階の広いバンドを設定する。そしてバンドごとに基本給の上限を決める。企業は予算に応じてバンド毎の採用人数を調整することができるし、従業員は、バンド内の評価と給与の上昇、また上位のバンドへの移動を目指して仕事、また学習を続けることができる。
日本では、経営層の報酬についても、説明が求められるようになってきた。取締役制から執行役員制に変更し、多くの取締役を執行役員に変える。執行役員は、責任範囲が明確である。同時に成功報酬制度を導入することにより、合理性を確保する。
筆者は、欧米のこれまでの習慣について、日本側で勘違いされているであろうことをも報告している。まず欧米でも1980年代頃まで、学卒ホワイトカラーについては、多くの企業が事実上の雇用保障を行ってきたこと。そして90年代に必要に迫られ、同対象に大規模なレイオフを実施し、従業員のモラール低下を招いてしまったことである。
また米国のトップマネジメントの報酬は非常に高額であると言われることも少なくないが、実はデータベースに基づいていること。米国では、同立場の報酬が業界、地域、企業規模等の指標別にデータが集計され、公表されていて、株主は現在の企業の役員の報酬は他と比べて高いのか、低いのかを確認できる。同様の方法は香港やシンガポールなど、アジアの一部の国でも取り入れられている、という。
本書では、これから人材マネジメントへの提言は控えているが、戦後の様々な企業の規模、形態で採用されてきた人材管理手法について、幅広く、かつわかりやすく解説している。これからこの分野を学ぶにも、おさらいするのにも、役立つ本である。
人材マネジメント論
経営の視点による人材マネジメント論
高橋俊介
1998
東洋経済新報社