孤独の科学 人はなぜ寂しくなるのか

Human Nature and the Need for Social Connection

 人は一人では生きていけない。説教によく用いられるこの定説は、現代の人類が引き継いだ欲求であり、遺伝子に強く刻み込まれている。空気を読む能力は、進化の過程で身につけられたと考えられる。狩猟採取民から農耕に移る際に、「空気を読む」、すなわち他者の思考や感情を感じ取る必要性が生じ、洗練された感覚運動アプローチが優位に立った。それが自分の遺伝子を次代に受け継がせることに役立ったからだ。向社会的な特徴は「標準仕様」となり、それと対照的に仲間外れにされるという感覚はいっそう恐ろしく、有害なものとなった。

 どんな人でも孤独感を覚えて苦しむことがある。人は孤独感を覚えると、単に落ち込んだり、無気力になったりするだけでは留まらない。実際に健康に大きな悪影響を与えてしまう。

 人は周囲の人間とじかに触れ合う形のつながりがうまくいかないとき、その空白を埋めるためにものを「擬人化」することがある。人はペットやコンピュータとも、疑似的社会関係を結ぶ。

 孤独感の強い人は、アイスクリームなどの高脂肪の食べ物に手が伸びる。糖分や脂肪分を脳の快楽中枢に送り込むことによって、心の痛みを和らげたいと思い、制御できずに実行してしまう。

 疫学者のリサ・バークマンは、健康面の影響について九年間調査した。他者とのつながりがほとんどない人は多くの触れ合いがある人よりも、九年間に死ぬ確率が二倍から三倍高かった。社会とのつながりがない人は、虚血性心臓病、脳血管や循環器の疾患、癌、さらには呼吸器や胃腸の疾患など、死に至るあらゆる疾患を含む、より広範な原因で死ぬリスクが高かった。

 孤独感は、人が自分自身に対して罰を与えるように促してしまうが、対照的に周囲との社会的なつながりを感じた時には報酬がある。

 人は社会的なつながりを意識した時に、脳からオキシトシンが分泌される。オキシトシンは社会的なつながりの「マスター化学物質」であり、媚薬に近いものである。サルが毛づくろいをするのは、リズミカルな接触によりオキシトシンの分泌を促し、それによって社会的調和が促進されるからである。運動をして汗をかくと、この化学物質がより多く放出され、集団の結束をさらに強める。オキシトシンはストレス反応性を弱め、苦痛への耐性を強め、注意力が散漫になるのを防ぐ。授乳は、母子双方にオキシトシンの分泌を促す。

 他の研究では、地域社会の結びつきが強くなると、病気やその他の原因による死亡者数が少なくなることがわかった。

 本書は、孤独感を和らげるべきだとか、人間関係の上で安心感を得る方法について、長く述べてはいない。しかし孤独感は、誰にでも生じ得るもので、また克服可能なものであることは示されている。

孤独の科学 人はなぜ寂しくなるのか

Human Nature and the Need for Social Connection

John T.Cacioppo & William Patrick

柴田裕之 訳

2008 原作

2010 邦訳

河出書房

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