招かれた女
L’ Invitée
ボーヴォワールの作品である。ボーヴォワールは、以前「第二の性」を読んだ時に知った。高校生の時、心理学の本を読みたくなり、古本か何かで手にしたものだ。
フランソワーズはパリで、グザヴィエールと出会う。グザヴィエールはルーアン出身。特にやりたい仕事もなく、ぶらぶらしていた。フランソワーズは夫のピエールと共に、グザヴィエールがパリで暮らす資金を出す。グザヴィエールはホテルの部屋に泊まり、ピエールの稽古場で演技を学ぶ。グザヴィエールには、役者になれとは言わない。パリにいる間に、速記でもマネキンガールでも、なんでもいい。パリにいる間に、音楽とか、芝居とか、ダンスとかでたっぷり遊べる。
グザヴィエールはフランソワーズにとって、可愛く、きれいで、愛おしく、哀れ、不憫で、そして憎くて、放っておけない女の子である。
「『きっとしあわせにしてやろう』と、フランソワーズはかたく心に誓った。」
フランソワーズはピエールと一体であった。ピエールが演出し、自らも立つ舞台の幕が開くと、愛情がこみあげてくるほどだ。しかし、グザヴィエールはピエールたちと同じホテルに泊まり、ピエールと毎日顔を合わせる。
まだ若い三人である。フランソワーズは原稿と取っ組み合いをしている間に、グザヴィエールは毎日ピエールの稽古場で特訓し、また夜には三人落ち合って酒場で語り合う。グザヴィエールは、酒を飲むと議論に身を乗り出す。ピエールはグザヴィエールに唆され、身を乗り出して戦っていく。笑いながら、少々怒りながら、口論が一晩中続いていく。
ボーヴォワールの文はきれいで好きだ。
フランソワーズはピエールに、グザヴィエールのことを『惚れてもかまわなくってよ』と言ってみる。途端にピエールは、『冗談じゃない』『ひょっとしたら前以上に嫌われるかも知れないよ』と肩をそびやかす。しかしその直前には、『僕には人を征服したい癖がある』と言っていた。そしてその晩、グザヴィエールはフランソワーズにとって、”可愛いグザヴィエールちゃん”から、きざで、足でまといになり、敵意がわいてきた。
「『あの子は僕に対してとても好感を持ってるぞ』と、ピエールはわざと自惚れを装った口のきき方をしたが、心中満更でもない様子が現れていた。フランソワーズは胸くそが悪くなった。」
「だれかがそばにいて、《あたし疲れて、ふしあわせなの》と言ってくれる必要がある。そうすれば、この漠とした、苦しい瞬間も、堂々と生活のなかにおさまるだろうに。でも、だれもいない。」
「孤独とは、脆い食物のように、小さく割って食べる、というようなものではない。一晩だけそこにかくまってもらえる、と思ったのは、笑止千万だった。完全に自分のものにしないかぎり、完全に捨て去らなければならないのだ。」
「グザヴィエールが、こんなに自分のことに気を使ってくれるとは、夢にも思わなかった。本当に見損なっていたわ。うめ合わせにうんと可愛がってやろう。」
「この子は、いま、あたしの姿はもちろん、存在までも抹殺したいと思ってるのだ。」
「フランソワーズは、グザヴィエールにたいして、暗い、苦しい気持ちが胸いっぱいにひろがるのを感じて、一種の喜びを覚えた。はじめて経験する、救いにちかい気持だった。憎しみが力強く、すくすくと生長して、いまのびのび花を咲かせたのだ。」
全体の雰囲気は、J・D・サリンジャーの「ライ麦畑でつかまえて」に似ている気がする。すべてが備えられ、不足がないのに、満ち足りることなく、不安で、不満で、繰り返す日常から逃避する。そして、その間にもともと手にしていたつまらないものが、どこかにいってします。
例によって登場人物が多いので、少しだけここに書いておきたい。
フランソワーズ・ミケルは女、小説や演劇の台本を書く。ジェルベールに先生と呼ばれている。
ジェルベールは男、20歳。ピエールの舞台に出ている。幼少時代は貧乏。映画のエキストラの役をさがしに行って、採用された。そこから役者として稼ぐようになる。ジェルベールは一人で本を読み、勉強するが、やがて映画では使ってもらえなくなってしまう。そこでピエールに声をかけられた。
ベクラールはジェルベールを子供のように可愛がり、家にもおいている。
アニーはジェルベールの女友だち。
ピエール・ラブルッスはフランソワーズの夫。役者であり、演出家でもある。身体はずんぐりしている。
グザヴィエール・パジェスはルーアンの伯父の家に住んでいて、パリに遊びに来ていた。伯母の名はクリスチーヌ。
イネスは役者。ノルマンディ出身の女。グザヴィエールと出かける仲。
カンゼッチは女、ピエールの舞台に出ている。
エリザベートはピエールの妹。画家。
シュザンヌはクロードの妻である。エリザベートはクロードと付き合っている。
クロードは脚本家。
ベルジェは舞台監督だろうか。ポール・ベルジェの夫である。
マッソンは小説家、ポールの父である。
バッチェ
テデスコは役者。ピエールの舞台に出る。
ヴュイマンはピエールの舞台の大道具。
レジはピエールの舞台の大道具か。
ギミョーはエリザベートの新しいボーイフレンド。役者である。
ボルシヤは役者。ラブルッス先生に教えてもらっている。
エロワはピエールの知り合い。「友だちが約束を取消すと、そのたびに、ちょうどあたしも用事ができました、と返事する」
リュヴァンスキーはエリザベートの友人。
マルシャンとサルトレル、ピエールの舞台を見る。
ナントゥイも舞台監督か。
ロズランは脚本家か。
サズラは役者か。
モリエはバンジョーが上手、バリソンはべらんめい言葉を完全にあやつる。カスチエは酒に強い。
ベグラミアンは役者か。映像もつくる。シャノーに惚れている。
バアンとランベールは演劇学校の先生。
ミシェル、レルミエール、アデルソン、ベラクール、ドミニク・オロール、ブランシュ・ブーゲ、マリー・アンジュ、シャー役者か。マルク・アントワーヌは男、役者か。
ベルナンはピエールの仕事仲間。
ジャンヌ・アルブレー要確認。
リーズ・マランは歌手か。役者にもなる。
ヴェルレーヌ要確認
ドゥールダン要確認
シャイエ要確認
メルカトンは男、役者。
ランブランは役者か。
招かれた女
L’ Invitée
ボーヴォワール著作集Ⅰ
1967
人文書院