異世界の帝王

LOAD KALVAN OF OTHERWHEN

 ペンシルヴァニア州警察のカルヴァン・モスリンは、ある農家に立てこもっている犯人を確保しようと動いた際に、突然別世界に移動してしまう。そこは、元にいた世界によく似た、隣の時間線の、平行世界であった。

 そこでは、アメリカ大陸を大国が五分していた。カルヴァンが仲間入りしたのはホスティゴスという国。そしてノストル、アルマネス、サスク、ベシュタである。全体をカイノプラス王が治めていたが、下位の国同士には争いがあった。ノストルの大公ゴルモトは、ホスティゴス領を侵略しようと、多くの兵士を派遣していた。

 カルヴァン・モスリンは、移動した先の世界で、すぐに闘いに巻き込まれてしまう。

 この地では、火の種が貴重であった。これは銃を撃つのに必要である。火の種の製造方法は、スティポーン家の神官が独占し、ノストルの大公ゴルモトは彼らを保護していた。

 カルヴァン・モスリンは、元の世界では、専攻をそっちのけで戦争史を学んでいた。そして、火の種の製造方法をホスティゴス王プトスペスに教えた。火の種は、スティポーン家の神官が祈りを捧げながらでないと作れないとされていたが、その嘘を暴いたのである。そしてホスティゴスで火の種を製造し、また軍隊の訓練を始める。カルヴァン・モスリンの知恵は、ホスティゴスのみならず、その世界の常識を塗り替えるものであった。

 カルヴァン・モスリンに教えを請い、より強い武器、精錬された火薬、そして戦略を手に入れたホスティゴスは、ノストル、やがてはサスクに立ち向かっていく。

 紙数は少ないが、戦闘の場面の描写は見事である。数千の軍が互いにぶつかり合う。騎兵と歩兵が、銃と剣を持って戦う姿は、迫力満点だ。

 本書はSFである。カルヴァン・モスリンは、〈第四水準〉の時間軸から、〈第五水準〉の時代に移ってしまったのである。本書内では、〈第四水準〉と〈第五水準〉が交差したとしても、目立って大きな変化はない。寧ろ、第五水準に移ったあとのカルヴァン・モスリンの活躍が見ものである。

 カルヴァン・モスリンはまずホスティゴスの軍備を整え、人心を握り、作戦を立てる。そして悪魔を恐れる国民のために、宗教をコントロールしていく。

 ゲームをやりたくてたまらないのに、買ってもらえない子供たち、ぜひこの本を読んでいただきたい。ここには生産、訓練、情報統制、戦闘隊列、傭兵の扱い方、その他戦略ゲームの中のおもしろい要素が詰まっている。

異世界の帝王

LOAD KALVAN OF OTHERWHEN

H.Beam Piper

関口幸男 訳

1965 原作

1974 邦訳

ハヤカワ文庫

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