白い牙
WHITE FUNG
ホワイト・ファングは、狼の姿をした犬である。犬の血を四分の一、残りは狼。身体は大きく、狼そのものであった。他の狼と同様に、洞穴で生まれ、母狼に育てられた。成長に伴い、山の中を歩き回るようになり、他のオオヤマネコに襲われ、ライチョウを狩り、イタチを狩る。人間と生活を共にするようになったのは、偶然であった。水を飲みに流れに下った際に、インディアンに囲まれたのである。人間に撫でまわされて最初は嫌がって唸り声を上げるが、守りに来た母狼キチーの反応は異なった。その人間たちに近づいた途端、威嚇をせずに、人間に降伏したのだ。それ以来、ホワイト・ファングは人間の側にいるようになり、すぐに彼らを神と呼ぶようになる。神々の手には生きていないものを支配し、世界の顔を変える能力が備わっていた。竿の骨組みがいとも簡単にテント小屋にかわり、それがいくつもできた。神々の考えは予想がつかない。噛みつく他の犬から守り、まれに肉を投げてよこし、まれに突然怒って繰り返し殴る。まれに移動したキャンプからはぐれてしまうことがあっても、また戻ってくる。やがて仕える神も何度も変わるが、ホワイト・ファングの忠誠は変わらない。神々の身体を守り、財産を守り、そりを引く。ホワイト・ファングは、他の犬と群れることをしない。もともと犬の方がホワイト・ファングを嫌い、噛みつくからだ。ホワイト・ファングは、一度敵対した犬には必ず復讐する。威嚇もせず首筋に噛みつき、死骸を他の犬に曝す。やがてどの犬も寄り付かなくなり、ホワイト・ファングもそれを好んだ。やがてより過酷な状況に落ちるが、犬の血を思い出すこともある。後半には、苦難に耐え続けたホワイト・ファングに、変化が訪れる。
ホワイト・ファングが神々と呼ぶ人間は、欲望の塊である。そりを引かせ、決闘を他の神々に見せ、金を取る。ホワイト・ファングは、その大半の血を狼に預けていたのに関わらず、神々の側を離れることができない。周りの犬からは、人間の敵だとして敵視され、闘い続けることを迫られる。しかしそれに打ち勝ち、神々を守り続ける。ここには、意思だけでない、血の齎す決断の様子を見ることができる。時に前に仕えていた、或いはホワイト・ファングを支配していた神と出会うこともある。守る掟は、今仕える神を守ることである。
邦題『白い牙』
原題 ” WHITE FUNG”
Jack London 作
訳 白石佑光
1906 原著
1958 邦訳
新潮文庫