秘密の花園
The Secret Garden
かなり前に小公子、小公女を読んでおり、秘密の花園は映画だけしか見ていなかったので、作者が同じだということを改めて確認した。
小公子、小公女を呼んだのはかなり前なので、記憶も少し薄れてしまったが、秘密の花園は、この二点と少し印象が異なった。主人公のメリー・レノックスはわがままで口が悪い。もちろんバーネットの作品らしく、根が優しいので、名脇役であるジッコンを尊敬し、すぐに仲良くなる。メリーとジッコン、そしてコリンの三人で、この話は進んでいく。
この本では、人物の背景をとても丁寧に説明している。メリーが登場してから花園を見つけるまでに全体の四分の一。森の動物達と自由に話をするジッコンが出てくるのは、最初からかぞえて三分の一、メリーが住むことになった屋敷の跡継ぎであるコリンが出てくるのは、全体の四割が進んだところである。
物語半ばまで、メリーはまだ意地っ張りだ。しかし、それにも負けないほどのコリンの態度に困惑する。そしてコリンのわがままをきっかけに、話がより進んでいく。
コリンの父はせむしであり、コリンはその財産を狙うクレーヴン先生に、もうすぐ父と同様に背中にこぶができ、長生きはできない、といわれている。コリンは生まれた時から子供に会ったことはなく、周りに大人しかいなかった。使用人たちは、コリンが怒ることに怯え、好き勝手にさせていた。自分が病弱だと信じ込んでいたコリンは、一年に何度も寝込み、屋敷からも出ず、移動にも車椅子をつかうありさまだ。
メリーはコリンと出会ったあとも、ジッコンと一緒に花園を整えるのに大忙しである。ある日、コリンが話をしに部屋に来てほしい、というのを放っておいて、ジッコンと土いじりをしていた。その夜、コリンはヒステリーを起こした。喚きながら廊下を走り回り、いろいろな部屋の扉を大きな音を立てて開け閉めする。メリーが素直な子に変わる前に、わがままなコリンを叱りつける場面がとても印象深い。「おだまり。なくのやめなさい。あんたなんか大きらい。だれだってみんなきらっているわ。みんなこの家をとび出して、あんたを死ぬまでわめかせておけばいいんだわ。わあわあ死ぬまでなけばいいんだ。」
ここからメリーとコリンの素直さが前に出てくる。塀で囲まれて扉に鍵のかかった花園に入れることは、最後まで大人たちには秘密である。この二人は10才であり、3才年上のジッコンの振舞いには味がある。ずっとベッドに横になっていたコリンのために、ジッコンは仲のいい動物たちを連れて、コリンの部屋までやってくる。そして小さな子ひつじをコリンのひざの上に乗せ、牛乳をあげた。
お話は冬から秋まで、一年にも満たない。しかし子供たちは、驚くほど変化する。やせっぽちのちっちゃなからだにとがった顔、かみの毛が黄色くて、顔の色まで黄色であった、メリーの頬に紅が差し、コリンと共に可愛らしくなっていく姿は、とてもよい。
秘密の花園 世界名作全集 66
The Secret Garden
Burnett, Frances Hodgson
岡上鈴江 訳
1911 原作
1954 邦訳
講談社版