組織マネジメントのプロフェッショナル
競争優位を実現する自立組織とリーダーシップとは何か
本書の執筆時には、ソリューションビジネスという表現が多用されるようになってきた。多くの経営学関連の本に書かれているように、同一品の大量生産が市場に好まれていた時期が終わり、企業や組織は、個々の顧客から細かな要求を突きつけられてきた。それまでの仕事の順序を変えずにその要求に応えようとすると無理が出てきて、いい結果は得られない。そこで、組織全体を改革する必要がある、と説く。
筆者は、あらゆる仕事のサイクルは「WHAT-HOW-DO-CHECK」という流れで構成されている、という。WHATは問題発見、課題設定。HOWは問題解決の担当者と方法、DOは実行、CHECKは実行内容とプロセスの検証である。当然個別の問題、課題に対応していくので、細かなマニュアルの作成と徹底順守、という方法とは逆である。組織として、常にマニュアルを参照していないような雰囲気を保ちつつ、あらゆる状況や要求に一貫した方針や態度を守って対応することが理想である。そのためには、リーダーは最初に具体的な指示を出してはいけない。それよりも、成員に具体例を多く見せることが重要である。成員はそれを学ぶことにより、個々が直面する様々な課題に対して、上記の結果を出せるようになっていく。
より柔軟さを持つ組織を維持するために、これまで日本に多く見られていたような、固定化された組織を変革する必要がある。年功制、いつまでも交代しない役員、機能固定化などは、顧客に悪印象を与えてしまいかねない。新しい顧客の要求に応えられるのは、多様な人が集まり、会社の価値観やビジョンに共感を抱いている時である。そしてこれを自立組織と呼んでいる。
自立組織の中で、WHATを構築するのがリーダー、WHATをHOWに分解するのが中間管理職であるという。リーダーはHOWではなくWHATを示すため、常に夢を力強く語る必要がある。そのためには自分の性格を何度も確かめ、自分に最適な学習方法を続けていくことが必要である。
末尾に、IBM、リクルート、慶成会青梅慶友病院の担当者と高橋氏の対談が添えられている。その中で、慶成会青梅慶友病院の理事長大塚宣夫氏との話が興味深い。慶友病院は、高齢者を多く受け入れている。中でも、自宅で介護した場合に、家族に多くの負担がかかるような例が少なくない。多くの医師、看護師が働いているが、その人事評価の方法を紹介したい。ここでは、全員評価をしている。年に一度、全職員に、名簿のように全職員の名前が書かれている紙を配る。具体的な場面は著さず、「とても良い」「良い」「普通」「やや悪い」「悪い」「わからない」という6項目のうち、ひとつを選択する。もちろん無記名である。そしてすべての評価を集計し、これを人事評価の8割に反映させている。残りは上司による評価、そして自己評価である。この全員評価が不思議だが、正確である、という。特に上司による評価と結果が異なる場合に、全員評価の結果が事実により近い、という。
前半は組織の形について詳しく書き、後半は自分が選択できるリーダー像に向けての学習について書いている。具体例を多く含み、わかりやすさを心掛けている本である。
組織マネジメントのプロフェッショナル
競争優位を実現する自立組織とリーダーシップとは何か
ビジネス・プロフェッショナルシリーズ
高橋俊介
2004
ダイヤモンド社