仕掛学
人を動かすアイデアのつくり方
学生の時にアルバイトに行っていたファーストフード店で、ある店長が金属のついたスポンジたわしを廃棄し、金属のついていない食器洗い用スポンジをそろえたことがあった。アルバイトの皆は気づかなかったが、スポンジ中に油が溜まることもなく、寸胴に傷もつかなくなり、仕事の効率が上がったことを覚えている。本書とは少し関係のない話かもしれない。
本書では仕掛けを分類しているところに特徴がある。仕掛けには物理的トリガ、心理的トリガがあり、物理的トリガの中にフィードバック、フィードフォワードがある。フィードバックは言葉だけを見てある程度想像できたが、フィードフォワードはすぐにはわからなかった。
フィードバックは人の行動に応じて仕掛けが変化する。うぐいす張り、鹿威し、風鈴が代表例である。それに対してフィードフォワードは、人が行動を起こす前に仕掛けから人に伝わる情報である。フィードフォワードは、アナロジーとアフォーダンスに分けられる。アナロジーには、「初めて見たものでも馴染みの深いものに変える(異質馴化)」と、「馴染み深いものを異質なものに変える(馴質異化)」がある。異質馴化の代表例は、階段をピアノに変えた演出である。馴質異化の代表例は、男性用小便器にある的である。「的は飛散が最小になる場所に貼られているので、的を狙うことによって知らず知らずのうちにトイレを綺麗に使うことに貢献することになる。」
アフォーダンスは、今まであまり馴染みがなかった。アフォーダンスは、事前知識がなくても見ただけで使い方がわかる「物の特徴」のことである。「イスを見たことのない人でも、イスを見ると『座れる』ことがわかる。この場合、イスは『座る』ことをアフォードしているということができる。」
心理的トリガはもっと面白い。[挑戦]ゴミ箱の上にバスケットゴールがあると、シュートしたくなる。そしてシュートを外してしまうと、ちょっと大変だ。[不協和]多くのファイルボックスの背に横断して斜線を引いておくと、その斜線を揃えておくようになる。ドラゴンボールの漫画の背表紙にも同様の仕掛けがある。[被視感]「誰かに見られているような気がすると、人に見られても恥ずかしくない行動をつい取ってしまう。」「コーヒーの代金回収箱に目のシールを貼ると回収率が上がり、駐車場の壁に顔の描かれたポスターを貼ると盗難が減る。」[社会的証明]「他の人々によって生み出される規範のことである。」自転車やスクーターの籠の中にひとつでもゴミが入っていれば、多くの人が次から次へとゴミを投げ込んでしまう。
今度は失敗学の本を読んで、仕事上の間違いを防止する仕組みを作りたいと、必死で思っている。
仕掛学
人を動かすアイデアのつくり方
松村真宏
2016
東洋経済新報社